佐々木に関連する紹介文やオリジナルなエッセイなど




日本学術振興会web・私と科研費,No.85 「エネルギー資源と二酸化炭素削減について」

佐々木 久郎 (2016年2月)

 私が大学院修士課程に入学したのは1979年で,大学院学生として実験に明け暮れていた時期から既に30年以上経過しており,その頃のことを含めることに逡巡もあるが,ご容赦いただきたい。大学院修了後は,乱流拡散や地下の多孔質流動などの熱・物質伝達を含む複雑系の流れやエネルギー資源の生産に関わる研究を手掛けてきた。この間,熱・流体分野の研究手法は大きく変化し,例えば,流れの実験ではPIV 流体計測(Particle Image Velocimetry)などが,数値解析では数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)シミュレーションソフトウェアがコンピュータの急速な性能向上と共に利用できるようになり,研究ツールの高度化とその成果には目を見張るものがある。
 大学院生のときの研究では,解析プログラムや実験装置は概ね自分で設計し,装置なども研究室の技術職員の方に手伝ってもらって製作した。実験装置の構造や精度などもいわば「肌感覚」で理解し,変更や改造の積み重ねによって新たな方向や測定項目の追加,測定精度の向上を手探りした記憶がある。このように書けば,一見「きれい」な研究プロセスのように見えるが,現実は失敗も多く「床を這う」苦しさを味わったことも事実であるため,現在の学生にストレートに伝えることに正直なところ躊躇している。
 いま,研究資金が潤沢な研究プロジェクトであれば,高度な測定装置や商業解析ソフトウェアを利用でき,「マニュアル」に沿った測定や数値解析が可能となっていることで,大学院学生も初期段階から,例えばナノレベルの先端研究などにも参画することができる。また,数値解析ではカラーインデックスで3次元画像として結果が表示され,手間のかかる実験を実施しなくとも何らかの結果が得られるので,研究成果が短期間に終結できる場合も多くなっている。一方,これらの研究では測定装置や解析手法の内部が「ブラックボックス」化し,測定や解析結果の適否の判断が難しくなっていることもあり,学生が結果を「鵜呑み」にしてしまうことや新たに思いついた内容を反映させようとしても変更や改造が簡単にできないことも多く,ジレンマがある。さらに,大学の技術職員が減少していることで研究室に導入した装置やソフトウェアを継続して維持することが難しくなりつつある状況も運営上の悩みとなっている。
 1990年頃から取り組んだ主要な研究テーマは,炭化水素エネルギー資源の生産と二酸化炭素利用・地中貯留に関するものである。とくに,石炭,重質油,天然ガスなどの化石燃料資源を地下から採掘し,その燃焼ガスが大気中に蓄積され温暖化の誘因になっているということが1990年頃から指摘されるようになったため,エネルギー資源と二酸化炭素利用を含めた地中貯留などの挙動解析や全体システムの評価などの研究を実施してきた。現在では,二酸化炭素などの温暖化ガス削減は,日本のみならず世界が協力して取組むべき重要課題として浮上しており,フランス・パリで2015年12月に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において,2020年以降の世界的な温暖化対策の枠組みが議論され,合意がなされた。すなわち,二酸化炭素などの温暖化ガス大気放出量の削減対策は「待ったなし」で推進しなければならない政策課題となっているが,その解決と実現のためには科学技術によって解決すべき課題も多く含まれている。とくに,「南北間格差」や二酸化炭素の排出量が多い「石炭」が象徴的なせめぎ合いの対象となっている。石炭火力発電所などの大規模排出源での二酸化炭素の分離・回収と元々賦存していた地下への固定や貯留を組合せる CCUS (Carbon Capture Utilization & Storage)あるいは CCS(Carbon Capture & Geological Storage)と呼んでいるシステムを経済的に実現できれば,エネルギー供給と温暖化防止の両面で貢献できる。また,地球上における大気と海洋,土壌や地下との炭素循環バランスをこれ以上崩さないために二酸化炭素の地中貯留は必要な措置の1つである。これらの課題に対する各国の開発競争も次第に激しくなっており,日本の科学技術の積極的貢献が期待されている。
 このような,人類が直面する課題の科学的検証を伴う研究は,申請課題の内容に制限がなく,研究者による「ピアレビュー」と「倫理的運用」を基本とする競争的資金である「科研費」は,日本の他の研究費に比較して最も理想に近い形で運営されていると感じている。産業界からの研究資金とは異なる「学術的な自由度」の許容が,多くの研究者の努力によって維持・発展してきたことが理由であると推測する。研究に参画する大学院学生などにとっても外部への成果公表についての制限を基本的に受けないことから,「科研費」が大学の基盤的研究と教育を支えていることを実感している。
 私も,2003年9月〜2006年3月までの2年半,学術システム研究センターの専門研究員として,工学とくに総合工学分野の業務に携わった。総合工学には,地下,大気,海洋,地球,資源や核エネルギーなど広範な科学技術分野が包含されるため,ともすると社会からのニーズはあっても産業界のニーズが十分とはいえず,若手人材育成が滞ることへの危機感が大きくなっていた時期であった。そのため,地球温暖化問題は,まさに社会科学を含めた学際的な研究を必要とする課題であるが,とくに総合工学が担うべき内容が多いことを,この分野への提言とキーワード等に含めさせていただいた。
 地球や地下などの「見えない対象」を観察・把握し,課題に挑戦する若手研究者の適切な育成と支援は,産業,地域,国などの個別の利益に留まらない地球温暖化問題解決の基盤である。最後に,若手研究者や大学院学生には,「マニュアル」に頼らない「手作り」の研究が,新たなブレークスルーに繋がる可能性を持つことを伝えたい。


九州経済調査月報 海からみえる九州第9回, 九州の“海洋資源”について

佐々木 久郎 (2014年3月)

資源,環境,海洋資源への取組
 現在,温暖化による気候変動などの地球レベルでの環境問題が私たちの生活に影響を与え始めており,私たちの気持ちにもある種の“影”を落としていることは否めない。大学では,「資源は入口,環境は出口」という持論を学生に話すことが多い。例えとして,地球は“金魚ばち”のようなもので,エサ(資源)を多くとれば排出物も多くなり,金魚ばちの水(環境)が汚れ,結果として中の金魚(人間)が自分の排泄物によって不快な環境に苦しむ図式として説明している。かといって環境に気を取られてエサをとらなければ自身の生存や成長が危ぶまれるわけで,人類は生産と消費による経済活動を止められない宿命ももち,資源とエネルギー消費による適度な発展と環境保全を両立させるための努力が人類に求められている。
 私どもの九州大学・資源開発工学研究室では,CO2回収・地中貯留(CCS)システムやCO2モニタリング,CO2を利用した重質油や炭層ガスの生産(CCUS)に関わる研究,静岡沖から宮崎沖までの太平洋側の沖合海底下に賦存するメタンハイドレートや深層の石炭層からのメタンガス(天然ガス)を生産するシステムを主として研究しているが,未利用となったトンネルなどの地下構造物や,未利用ミネラルである石粉やシラスなどの地域資源の有効利用といった社会連携プロジェクトも同時に進めている。例えば,唐津市における未利用地下トンネルの機能性貯蔵などがある。また,2013年4月から,海洋関連産業を新たな地域産業として育成・振興するための「海洋資源開発・利用プロジェクト創出研究会」(九州地域産業活性化センター,会長は九州大学・吉川孝男教授)のメンバーとして,海底下メタンガスの資源調査を実施し,今後5年程度の期間で取り組むべきプロジェクトとして,九州の北部・西部の炭層ガス(コールベッドメタン,CBM)が適当と判断し,開発・生産モデルの初期フィージビリティスタディを実施している。以下にその概要を紹介する。

海底下炭層のCBM資源
 かつて九州では石炭採掘が活発になされたが,海面下の深層には未採掘の石炭層が残されたままとなっている。石炭層はミクロ孔隙をもつ石炭マトリックスとクリートと呼ばれる天然の亀裂群から形成され,ガスはマトリックス内のミクロ孔隙内に吸着している。
 したがって,ガス賦存量のポテンシャル(Nm3)は,素となる石炭層の賦存量(ton)に,単位重量当たりのガス量(概ね5〜30Nm3/ ton)を掛けて算定される。九州には大まかに96億トンの未採掘石炭と960億Nm3のCBMポテンシャルがあるとされている(文献1)。とくに,三池沖,唐津沖,西彼杵沖に賦存する深度300〜 600mの海底下未採掘炭層が有望視される。炭層内のメタンガス包蔵密度は砂岩層の天然ガス層に比較しても高く,99%以上の高濃度のメタンが含まれ,天然ガスとして利用できる。
 一般的には,最初に炭層の水を坑井から汲上げて減圧し,圧力が低下した石炭マトリックスから脱着したガスは亀裂群を通じて坑井に集められ地上に生産される。米国,豪州などでは非在来型の天然ガスとしてCBMの商業生産が実施されており,米国サンファン地域の炭層には1,000本以上の垂直坑井が掘削され,CBM生産が行われている。かつて,ガス湧出量が比較的多かった長崎県・大島炭鉱では,1961年から安全対策を兼ね平均6万m3/日の割合で炭層からメタンガスを抜き出し,約6千kWの日本初のガスタービン発電を実施した実績がある(文献2)。すなわち,九州北部・西部地区の炭層は陸地あるいは沿岸の島から近い海底下にあり,初期投資や操業コストを含めた採算性の観点からも有利な側面をもつと判断される。さらに,地層調査(文献3)によって地質層序なども明らかになっている地域も多く,資源調査の費用も抑えられるものと考えられる。例えば,面積約7.8km2の海域での生産を想定したモデルを表1に示す。全体では250億円程度のプロジェクトとなり,その数値シミュレーションも実施している(文献4)。


 資源と環境を取り巻く環境は,中央と地方といった枠組みに収まらない状況になってきており,地方にも等しくビジネスチャンスが存在する。九州は造船業や素材産業などの優れた技術基盤をもつことから,海洋資源やエネルギー開発の先端的拠点となるポテンシャルを有する。「海洋資源開発・利用プロジェクト創出研究会」の成果に期待したい。

参考文献
1)地殻深部エネルギー開発利用技術研究会(2005):CO2地中貯留と深部石炭・ガス複合資源開発.
2)松島興産株式会社(現,三井松島産業)(1983):社史「松島興産七十年史」.
3)石油公団(1998):平成8年度 国内石油・天然ガス基礎調査基礎試錐「五島灘」調査報告書.
4)P.Q. Huy, K. Sasaki, Y. Sugai, K. Maneeintr, T. Babadagli (2010): Numerical Simulation of CO2 Enhanced Coal Bed Methane Recovery for a Vietnamese Coal Seam, Journal of Novel Carbon Resource Sciences, Vol.2, 1-7.


学術システム研究センター10周年に寄せて

佐々木 久郎 (2013年12月)

「学術システム研究センター10周年」という連絡をいただいたときに,この10年が飛ぶように短かったと感じました。設立時の総合工学の専門研究員を拝命したわけですが,「どのような役割なのか」と正直不安な気持ちでした。その後,センターの機能が次第に明確化されて落ち着いていったわけですが,とくに記憶に残っていることは科研費申請に関わる細目表のキーワードの整理をさせていただいたことです。それ以前の総合工学には,かなりの「守備範囲」のオーバーラップや使用されていない研究領域のキーワードが含まれていたため,申請内容にマッチした細目の選択に迷う場合もありました。現在,科研費の申請書の作成時にそれらのキーワードが適切だったかどうかが気に掛かかったりもします。10年に一度程度,各細目間で調整しつつ,学問領域の進展に伴う見直しが必要な時期かと思われます。


産学官連携共同研究の恒温貯蔵設備を活用した商品開発について

唐津市ホームページ(2012年11月26日)より転載

唐津市では,産学官連携事業を実施して,経済や産業などの発展につながる技術や仕組みの革新に取り組んでいます。この産学官連携の共同研究で発明された設備を活用して有限会社ふるさと倶楽部が造った商品が,東京で開催されたDLG(ドイツ農業協会)主催のコンテストで見事金賞を受賞しました。

受賞の記念写真(左から,菅井助教,雪竹社長,佐々木教授)


有限会社ふるさと倶楽部は,恒温貯蔵設備(省エネ型長期熟成設備)を九州大学,唐津市との産学官連携で開発して,今回の商品開発に活用しました。この施設は,内部温度が年間を通して一定で,一般的な貯蔵施設に比べ電気代が6分の1というエコロジーな施設です。

■ 産学官連携共同研究の始まり
唐津市は,平成19年2月28日に国立大学法人九州大学と協力協定を締結しています。 情報交換をしていく中で,唐津市に複数ありながら未利用だった地下資源のトンネルについて情報提供を行ったところ,地下は貯蔵に適した空間であることから,その可能性を研究検証するための事業が始まりました。

旧国鉄呼子線跡地鳩川トンネル(唐津市浦地区)

■ 当初計画図
全長78メートル,高さ5メートル,巾3.8メートルのトンネルを断熱パネルで6つに区切り,家庭用エアコン2台のみを使用しそれぞれの部屋の温度調整を行う。

トンネルの構造

■検証事業の開始
この検証事業が,九州大学の社会連携事業として採択され,九州大学と唐津市で共同研究契約を締結しました。貯蔵に関係する唐津市内の企業や事業者,組合などを招いて地下空間貯蔵技術研究会を開催して協議しながら,研究場所や設備の仕様を決定し,平成20年11月13日から検証試験が開始しました。有限会社ふるさと倶楽部は,当初の地下空間貯蔵技術研究会から参加して,平成21年6月22日からは正式な協同研究者として,新商品開発に取り組んでいただきました。

■実用化に向けて
温度調整の各種データ採取後,食品管理の実用化のため,研究は湿度面,衛生面へ移りました。 当初設置した家庭用エアコンだけでは湿度管理ができなかったため,除湿器や熱交換器などを追加しました。この研究成果を恒温貯蔵設備発明として,有限会社ふるさと倶楽部,九州大学,唐津市の3者で特許出願の共同出願契約を締結しました。衛生面では,実用化に向けたトンネル内の改修にあわせて,銀系光触媒という抗菌コート剤を施工することで,内部の浮遊細菌や落下細菌,壁面付着細菌の数を清潔作業区域食品衛生規範内に収めることができました。

■新商品開発に向けて
共同研究は,最終年度の平成22年度から,有限会社ふるさと倶楽部の新商品開発とデータ採取がメインになりました。有限会社ふるさと倶楽部では,共同研究契約が終わった後も,試行錯誤を繰り返し,トンネル熟成の食肉製品の開発に取り組まれ,完成した商品が見事DLGコンテストで金賞を受賞されました。
今回の商品開発には,財団法人佐賀県地域産業支援センターのさが中小企業応援基金事業(新商品開発事業)の補助や,唐津市の新事業展開サポート補助金が活用されました。


ESDA-バイオガスと“VERTICAL VEGES. GARDEN”

佐々木 久郎 (2010年4月)

 国連大学では,地球環境と人類社会の持続可能性と各種問題が相互に不可分の関係にあるという問題意識のもとで,融合型・俯瞰型の研究・教育開発が目標の一つとなっています。とくに,アフリカの持続発展教育(ESDA,プロジェクトリーダーは武内和彦・副学長)に関わり,アフリカにおける都市,地域(田舎),鉱物資源の3つの課題とその解決を担う人材育成のための教育システムについての小委員会が設けられています。私は鉱物資源に関わる委員会に所属し,2010年3月初旬に開催されたナイロビでのワークショップに参加しました。 3つの課題に対応する小委員会合同でナイロビにある2箇所のスラム街の現地視察をしました。

キベラスラムの様子(上),雨天後のぬかるんだ道(下)


 雨が上がった後で視察が行われたため,キベラスラムはアフリカ特有の赤い粘土質の泥でぬかるんだ道(上の写真)を歩いて行われたもので,その移動は大変でした。もちろん,アフリカはその発展のスピードを高めているのですが,「影」の部分としてスラム問題に象徴される都市の貧困やエネルギー不足で,劣悪な環境の下で暮らしている人々が存在する現実があります。国際的なボランティア組織がスラムで支援活動しています。それらのプロジェクトで取組んでいるバイオガス施設(写真参照)と小学校における野菜栽培状況(下の写真)を見学しました。バイオガスはスラムの有料トイレでメタン発酵させてエネルギーとして利用するもので,衛生環境とエネルギー問題を同時に解決する方法として高く評価されていました。ボランティア組織の人たちからは,バイオガス中のCO2(約40%)をコストを掛けないで分離し,CH4をボンベ詰めしたいという要望が出されていました。この技術的解決策は小規模CCSなどへの応用も考えられるものです。
スラムにある小学校では,児童を学校に呼び込むため,給食を出していますが,その給食用の野菜を自給するための工夫が“Vertical Veges. Garden”です。穀物袋に土を詰めるときに直径15cm程度の中心領域に子石を詰め,二重構造をもつ一種のプランターを作り,側面から苗を植えて野菜を”縦”に伸ばす工夫をしたものです。小石の多孔質層から水を流すことで野菜の根に効率よく直接的に水を供給できるので野菜が短期間に栽培できると説明していました。小石の多孔質層に“ダルシー則”が見事に生かされていることに感心した次第です。

“VERTICAL VEGES GARDEN” と名づけられた畑(上)とその構造(下)

 世界には貧しい環境に置かれている人々も多く,私たちがどのような形で共に歩むことができるかについて大いに悩むところです。鉱物資源の開発はその地域の人々にも持続発展的な利益をもたらすことが理想ですが,例え生活環境の改善であっても自立に向けた技術,資源,エネルギーの提供や地域リーダーの育成なども必要とされます。世界で資源開発に携わっている皆様に,これらの支援についてのご配慮をお願いする次第です。


G-COE(新炭素資源学)-インタビュー

聞き手:九州大学 炭素資源国際教育研究センター 松下 洋介先生
話し手: 佐々木久郎 (2010年1月)

松下:
 佐々木先生の研究室に伺い,未利用資源の開発技術や,二酸化炭素の封じ込めの研究について紹介頂きました。メタンハイドレートや炭層メタン,オイルサンドなど,経済的および技術的な難しさが理由で利用されていない,非在来型資源と呼ばれる資源の開発技術,それら資源の眠る地下の世界では,どういうことがおこっているのか,実験装置の紹介をおりまぜて話して頂きました。

松下:
 それでは,早速ですが,先生の研究内容についてご紹介頂けるということで,お話頂けますでしょうか。

佐々木:
 最近の私達の研究室ではCO2-ECBMR,これは日本語で言うとCO2を圧入しながら,石炭層のメタンを回収するというプロジェクトで,CO2の固定とメタンすなわち天然ガスの生産という二つを狙ったものです。とくに,ECBMRでは地上から超臨界と呼ばれる高圧条件でCO2を地下深い石炭層に圧入して(スライド3 ←IW),離れた位置の生産井からメタンを回収するというものです。CO2が超臨界状態で石炭層の中でどういう挙動をするかについては,まだまだ多くの解明すべき課題が残っていますから,こういう数値シミュレーションだけではなくて,実験装置を使った実際の測定もしてきています。
 例えば,こういう石炭のコアを炭層から引き抜いて,これがどういう性質を有しているのか,CO2のようなガスがどのように透過するのか,そういう実験が必要になります。私どものところでは,こういうガスの吸収・吸着・変換,それから,高い地層応力が掛かっているもとでの石炭の浸透条件を,数値シミュレーターに入れて予測をしていくというような一連の研究をしています。
 私達のところではエネルギー資源の生産システムなどの研究もしております。とくにメタンハイドレートについては,次世代のクリーンな天然ガスエネルギーとして注目されておりますので,私達は国のプロジェクトの中で85℃程度の低温度の温水を圧入しながらメタンハイドレートを分解して地上へ生産するというシステムについて研究しています。
 また,世界的にみると,まだまだ石油資源は多く賦存しています。石油は40年と言われておりますが重質の石油資源を含めて,これから100年あるいは200年間石油を回収する技術,そういうものが今必要とされているのですが,とくに私達は水蒸気を入れて重質油を回収する技術を10年ほど前から研究していて,現在も南アメリカ・オリノコ川などの地域の生産プロジェクトを手掛けています。


(独)産業技術総合研究所 MHRC Newsletter No.4 「話題の研究室巡り」
メタンハイドレート研究センター
成田 英夫 センター長 (2010年4月)

 米国を始めとして資源開発分野の研究室が減少する中,日本の大学においては最近その傾向を打開する新たな動きが活発化しています。第1号でご紹介した東京大学におけるエネルギー・資源フロンティアセンターFRCER)の設立もその一つですが,ここ九州大学においても2000年に研究院制度を導入するなどの大きな組織改革を行い,資源開発分野においては地球資源システム工学部門において教育と研究を体系的に推進しています。
 資源開発工学研究室は,佐々木久郎教授,井上雅弘准教授および菅井裕一助教の3名の教員の下,22名の大学院生,学生等が在籍しています。研究室の目的は,新たな資源フロンティアを支える開発・設計・生産システムの最適化や資源生産における環境保全と安全確保のための教育と研究を担うことにあるとのことです。具体的には,メタンハイドレート,重質原油,CBM(Coal Bed Methane)などの非在来型エネルギー資源の開発・生産技術における熱攻法や微生物攻法の開発,二酸化炭素の地中貯留技術の開発,坑内通気の評価技術の開発などの研究をされています。坑内通気の測定技術の研究は,日本では昔の話のように聞こえますが,これは人命や労働環境の維持に直接かかわる問題であり,資源開発を研究する者として一種の技術者倫理としても維持発展させていかなければならないとのことで,研究室の懐の深さを感じました。海外とも数多く連携されておられ,二酸化炭素の貯留やCBMについては,アルバータ大学,カルガリー大学などとよく交流されているとのことです。  佐々木教授は,秋田大学から移った2005年以来,研究室の基盤整備と体制作りに専念され,最近やっと海外ジャーナルに発表できるようになってきたと謙遜されていましたが,確かに一からの研究基盤作りは大変であったことと思います。

研究室のメンバー(2010年1月―実験室において)

 実験室には,物質の圧力,体積,温度の関係式を取得するPVT測定装置,二次元の熱水圧入可視化装置,三軸応力下での浸透率測定装置などの他,生産挙動を解析するECLIPSやSTARSなどの生産シミュレータがあり,資源開発の研究室らしさを感じました。佐々木先生によると,特にPVT測定装置はある企業から譲り受けたものを改造したとのことで,整備に苦労はしたが今や研究を行う上での重要なツールになっているとのことでした。
 また,九州大学は文部科学省のグローバルCOE(Center of Excellence)「新炭素資源学」に選定されており,佐々木先生も人材育成の他,アジア・アフリカを始めとする海外との交流にもお忙しい毎日を過ごされています。今や国際的に減少傾向にある資源開発分野の人材育成や新たな資源の開発でのご活躍を期待いたします。


山下太郎顕彰育英会設立20周年(佐々木久郎)

山下太郎顕彰育英会設立20周年記念(2009年6月)への投稿文より転載

 山下太郎顕彰育英会が設立して20年ということである。私が第一回の海外派遣研究助成を頂いてカナダ・アルバータ大学に滞在してから20年近く経過したことになる。 当時,私は35歳で,秋田大学での文部省在外研究の若手派遣枠から外れて失望していた折に,秋田魁新聞で山下太郎顕彰育英会の設立を知って申請したところ,幸いにも最初の助成者に選んでいただいた。アルバータ州はオイルサンドと呼ばれる膨大な重質油,天然ガスや石炭などエネルギー資源の宝庫で,アルバータ大学と九州大学とは地球資源・環境系での相互交流協定を昨年締結し,一層の相互協力を進める関係を築いている。
 同大学で得た交流から,中東オマーン国・サルタンカボース大学やオーストラリア・アデレード大学とも重質原油の採油増進技術に関する研究交流が拡大している。偶然とはいえ,アラビア石油の創立者,山下太郎氏が抱いた「大志」の導きのようなものを感じる次第である。
 現在,九州大学から申請した日本学術振興会・若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(平成20年4月から5年間)のプログラムリーダを務めている。若手研究者を海外研究機関に派遣し国際的に活躍する人材を育成するもので,山下太郎顕彰育英会と共通した理念をもつ。派遣研究機関の一つがアルバータ大学であり,助教や大学院学生の派遣を実施している(平成20年度は2名)。20年前に不安な気持ちで秋田からカナダへ向かった私が,今は若手研究者の派遣を推進しているのも「導き」に因るものかと思うときがある。
 海外派遣研究助成は私にとって大変貴重な海外経験をさせていただくきっかけとなったもので,山下太郎顕彰育英会の関係各位に心から謝意を表するとともに,財団による助成事業が今後もすばらしい成果を生み続けることを期待するものである。


カナダ・クイーンズ大学およびアルバータ大学の資源開発系学科の訪問調査

佐々木 久郎 (2009年3月)


クイーンズ大学及び,アルバータ大学を訪問し,カナダの大学の資源系学部における教育システム及び資源開発人材育成プログラムの調査に同行した。

1.クイーンズ大学
クイーンズ大学工学部(カナダ・オンタリオ州・キングストン)
(School of Engineering, Queen’s University, Kingston, Ontario, Canada)
鉱山工学科(含む選鉱,鉱山機械プログラム)および工学部図書館
(Department of Mining Engineering, Engineering Library)
・訪問日・時間: 2009年2月24日 午前9時〜午後5時
・対応教員: De Souza助教授, Archibalt教授,Katsabanis助教授,その他6名の教員

訪問概要:
 クイーンズ大学は1841年に創立されたカナダで最古の大学の1つであり,鉱山工学科(1893〜)の歴史もながく,現在10名の教員(内2名は寄付講座)で構成している。学部2から4年次の在籍者数は150名程度であり,年50人の学部卒業生を出しており,カナダ最大のマイニング技術者の養成機関である。同系の教育プログラムとして,選鉱プログラムおよび機械工学科との共通科目を多くした鉱山機械プログラムを約10年前から設置しているが,鉱山工学プログラムに比較して小規模である。学部教育の充実した体制に対して,大学院修士課程の全学生数は17名,博士課程の全学生数6名となっており,現在その在籍者数を増加させることが課題として外部評価委員会から指摘されている。すなわち,学部教育から研究指向のプロジェクトの取得が必要とされている。また,大学院においては選鉱分野の学生数の割合が約50%であり,学部での選鉱コース卒業者が学科の5%であるのに対して比率が高い。学生の就職先は非鉄金属会社が多く,主に地下採掘に強い。
 以上のことから,クイーンズ大学においては学部における鉱山工学コースの教育とその実験設備や図書館システムなど充実しているが,大学院研究とその学生数が低迷していることが課題といえる。


2.アルバータ大学
アルバータ大学工学部(カナダ・アルバータ州・エドモントン)
(School of Engineering, University of Alberta, Edmonton, Alberta, Canada)
鉱山・石油工学スクール,土木・環境工学科(鉱山工学プログラム,石油工学プログラム)および理学部・地球大気科学科
(School of Mining and Petroleum Engineering, Department of Civil and Environmental Engineering, Geology and Atmosphere Science)
・訪問日・時間: 2009年2月26日 午前9時〜午後5時
・対応教員: 鉱山工学:Tim Joseph準教授,  石油工学:Tayfun Babadagli 教授,地球大気科学:Sarah Gleeson助教授

訪問概要:
 アルバータ大学は,昨年設立100周年を迎えた,カナダの大規模大学の1つである。土木工学科は,設立時からの伝統をもつ。当初は,鉱山工学プログラム(1914〜)と石油工学プログラム(1914〜)は,冶金・選鉱系と系を構成していたが,2002年からは,土木・環境工学科内に置かれている。ただし,教育カリキュラムとして独立しており,科目群も独立した運営形態となっている。学部の両プログラムの在籍学生数は130名および150名であり,最近5年間で大きく増加しており,1990年当時に教育プログラムの維持が困難視されていた状況から一転している。教員の定員は各6名であるが,石油工学の教員の実数は:現在3名で,近々に若手教員の採用を急いでいる。
 鉱山工学系での特徴は,Deutche教授の地質統計学とJoseph助教授の鉱山機械に特色があり,研究指向を強め,産業界との連携を強め,学生の就職先の確保と研究プロジェクトの導入に積極的である。また,石油工学系ではBabadagli教授が多くのアジア系の大学院学生を指導している。アルバータ州の基幹産業である石油・天然ガス・オイルサンドおよび石炭産業へ就職している学生の比率が高い。
 地球大気科学科は理学部に属しており,その中に鉱物学およびエネルギー地質学を専攻しているグループがある。就職先はやはり鉱山会社系および石油系企業が多いとのことである。
大学全体の方針としても研究指向が強く,大学院学生も経済的な面でのサポートを受けて在籍している。 アルバータ大学はアルバータ州立の大学として,財政的に恵まれているように見え,建物や学内の雰囲気にも活気がある。ただし,学部教育に関しては,その質とレベルの面でさらに教員数の充足が必要と判断される。


 以上,カナダの2大学の資源開発系学科の調査を実施した。全般的にみて,資源ブームもあったことから,カナダの資源系学科における学生の在籍者数は多いが,今後は淘汰が進み,鉱山系では米国4大学,カナダでも4大学程度が残るとの予測も聞かれた。その中で,アルバータ大学は炭化水素エネルギー資源のフィールドに近く,企業と密接な連携を強めたことで資源開発系教育カリキュラムを学ぶ学生数の増加に成功していることが印象に残った。


地球・資源システム工学分野への提言
(学術システム研究センター総合工学専門研究員として)

佐々木 久郎 (2006年3月)


【分野の特徴・特性等】
 地球・資源システム工学は,地球が何億年もかけて育んできた鉱物資源・エネルギー資源の探査から,その開発・生産・有効利用,さらには地震・火山活動の予測,災害の防止などを考える分野であり,研究対象が殆どすべて「システム」となっている,まさに総合工学である。
 地球資源の主な対象は,金属・非金属の鉱物資源,石油・石炭のエネルギー資源,海洋底の鉱物・エネルギー資源,地熱エネルギーなどであり,研究内容は,種々の手法を用いた探査方法から資源のリサイクル,環境修復なども含むため,地球の歴史に関する知識から,応用地球物理学,流体力学,熱力学,岩盤工学,機械工学,材料・破壊力学,応用化学,制御工学,情報解析など,幅広い知識が要求される。科学研究費の細目における「エネルギー学」,「リサイクル工学」,あるいは「海洋工学」とオーバーラップする部分も多い。
 経済大国である日本の産業活動や豊かな日常生活を支えているのは,石油,石炭,天然ガス,鉄・銅,鉛,亜鉛に代表されるエネルギー・金属資源などの鉱物資源であるが,その大部分は輸入に頼っている。したがって研究開発は当然のことながら国際的に展開されており,政府,民間企業,大学・研究所などが参画するプロジェクトとして行うことが多くなっている。
 最近は,地球環境問題に対する意識の高まりの中で,自然災害の防止技術の開発,地球環境への負荷を軽減する諸技術の研究開発,資源開発と環境保全・修復を両立させるための研究なども重要視されている。

【分野の過去10年間の研究動向と現在の研究状況】
 地球・資源システム工学は,2003年度以降にリサイクル工学とともに設けられた新しい科学研究費の細目名であり,それ以前は資源開発工学とされていた。1993年度〜2002年度において資源開発工学での採択課題数は462件であり,2003年度以降での地球・資源システム工学における採択数は164件であった。
 研究課題におけるキーワードはやはり多岐にわたっており,特に目立つのが「システム」を付けているものである。例えば,エネルギーシステム,生産システム,輸送システム,探査システム,回収システム,計測システム,監視(モニタリング)システム,分離・処理システム,掘削システム,評価システム,リサイクルシステム,設計システム,など枚挙に暇がない。とにかく1993年度以降の採択課題に「システム」を付けたものが74件あり,複合化した研究課題も多い。
 その他,比較的多いキーワードは,探査(1993年度以降の合計数44),地熱(36),制御(30),岩盤(45),岩石(58),鉱物(22),鉱床(11),弾性波(15),応力(20),き裂(45),破壊(32),破砕(13),ボアホール(20),廃棄物(19),透水(18),微生物・バクテリア(18),分離(16),微粒子・粉体(14),環境保全(11),環境負荷(9),二酸化炭素(15),エネルギー(17),ハイドレート(17)などであろう。
 これらのうち,増減が比較的少なく採択数が多いキーワードは,探査,制御,システム,き裂,破壊である。また2003年度以降減少傾向が見られるのは,岩盤,地熱、(貯留層),分離,鉱物,トモグラフィ,合成開口レーダ,鉄酸化細菌,焼却灰,機械などであり,逆に増加傾向が見られるのは,廃棄物(処理),汚染物質,土壌浄化,X線CT,低環境負荷,温暖化,二酸化炭素,エネルギー,ハイドレートなどで,環境問題,再生可能資源エネルギーの利用,新エネルギー開発などに研究の興味が移りつつあることが伺える。より具体的には,二酸化炭素の地中(石油・天然ガス層,石炭層および地下帯水層)あるいは深海底への隔離・固定化技術,火山活動の監視や防災のための新しい計測・解析技術,微生物機能を利用した環境修復技術,新たな水素エネルギー源としての硫化水素などの利用技術,低温度ではあるが地表に近く利用し易い地中熱利用技術,メタンハイドレート層および深部石炭層からのメタンガスの回収技術の開発などが関連した研究テーマであり,国内資源を含むこれらの研究は今後も継続して推進すべき研究テーマである。
 また物理探査においては,石油・天然ガス貯留層や金属鉱物資源の探査のために開発・発展してきた探査技術が,最近は遺跡や地雷の発見・調査などにも生かされている。

【地球・資源システムにおける今後10年間で進展が見込まれるテーマ・推進すべきテーマ等】
資源の消費大国でありながら,資源の大部分を諸外国からの輸入に頼っている日本にとっては,資源ナショナリズムが強まっている海外資源の探査・開発・生産に関しての学術交流(海外企画調査など)を進める「資源戦略」が必要であり,資源保有国の大学・研究機関との国際協力・共同研究による人材育成とそのネットワーク化が重要となっている。資源探査では,近年,衛星画像解析技術が飛躍的に進歩していることを受け,衛星画像の解析データを最大限に活用することにより,効率的に地下資源が存在する地域を宇宙から特定する技術を開発・実用化することが望まれている。さらに,ボーリング孔を利用して高精度に地下構造を明らかにする電磁トモグラフィ技術の開発,高温超電導磁気センサー(SQUID)を用いた高精度の電磁探査技術の開発も期待されている。開発対象となる資源の賦存レベルが非鉄金属資源では-1000m以深となってきている例も多くあり,岩盤強度を補う充填技術,地下水処理技術,ディーゼル排ガス対策を含めた地下高温環境での通気空調技術などの安全に関連した技術開発が必要とされている。
 また,海洋工学での研究テーマと重複するが,水深500メートル以上の海底面下にあるメタンハイドレートが天然ガスの重要な供給源として期待されているので,それを経済的に掘削・回収・輸送する新たな開発技術について研究し,発展させる必要がある。天然ガスの開発・有効利用では,天然ガスの液体燃料化技術(GTL),ハイドレート化輸送技術(NGH),DME(ジメチルエーテル)燃料の利用技術について既に研究が行われているが,これらはさらに継続して行われるべきである。生産が減少傾向にある軽質原油の価格が高騰する中,重質原油は同等以上の資源ポテンシャルを有していることから,熱的,化学的あるいは微生物を利用した石油増進回収法(EOR)に関するブレークスルー的な技術開発が求められている。 その他,進展が見込まれる研究テーマとして挙げられるのは,熱水中の溶存成分の吸着沈殿挙動におけるバクテリアの役割の解明,火山活動の監視・防災を目的とした熱赤外画像解析手法の研究,浅層地中熱の利用による冷暖房システムに関する研究,微生物を利用した資源生産システムの研究,二酸化炭素の地中および深海底隔離処分方法に関する研究,バリア技術による地下水・土壌汚染修復技術の研究,バイオマス・未使用低品位炭を利用した環境負荷低減型燃料製造に関する研究,高レベル放射性廃棄物の地層処分とその健全性評価の研究,などであろう。
 他の総合工学と同様,信頼性・安全性の向上,環境問題が重要な課題であるので,それに資するための要素技術を高度化し,各種のシステムとして統合化する研究も継続して行われるべきである。

【地球・資源システム工学分野における諸課題と推進手法等】
 エネルギー資源,鉱物資源の探査・生産は,海外における国際協働として行うことが不可避であるので,国際資源技術者の養成や国際協力・共同研究が今後益々重要になってくる。国際協力による共同開発を行うためには,産官学の連携が重要であり,情報・技術の提供,開発資金の援助などの面において,石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の役割も大きい。
 今後の地球・資源システム工学では,エネルギー資源・鉱物資源の探査から開発利用・環境修復までに関係した対象を「地球システム」として捉え,地球環境の共存を前提とした地下資源の開発利用から,自然災害の防止技術,新しいエネルギー資源の開発,資源のリサイクルを目的とした「アーバンマイニング」など,新たな観点からの取り組みが必要であり,このような観点に立脚した価値観や技術を身に付け,国際的に活躍できるシステムエンジニア・研究者を育成することが必要である。やはり国家の運営に不可欠な資源とエネルギーを確保するためには「人つくり」が最重要であるが,これは地球・資源システム工学に限ったことではなく,すべての総合工学分野に共通した課題である。



学生の海外研修の実施

佐々木 久郎 (2003年3月)

 地球資源系学科の教育目標の1つは,国際的な視野にたつ資源・エネルギー分野の開発技術者の養成にあります。そのため,海外の資源・環境などの研究機関,資源生産現場の見学や語学研修に対し,単位を認定することにしています。2002年9月25日から10月5日までの11日間の日程で海外研修を実施した内容をご紹介することにします。

参加した学生3名(2002.9.28―Luscar Mineにおいて)

 2002年度の研修は,(財)石炭エネルギーセンターの海外研修に関わる補助金(40万円)を受けて実施されたもので,研修地はカナダ・アルバータ州エドモントン市およびその周辺地域です。この地域は,石炭,石油・天然ガス,オイルサンドといったエネルギー資源とそれに関わる資源産業の世界的な集積地の1つで,炭酸ガスの地層固定化などの地球環境に関わる新技術開発なども積極的に進めていることで知られています。さらに,安全な研修地としても適当と判断されたものです。
 研修には3年次学生3名(男子1名,女子2名)が参加し,アルバータ大学鉱山・石油スクール,ARC(研究機関),2つの石炭鉱山の見学および4日間の英語研修というメニューで研修を受けました。参加学生から提出されたレポートの共通した感想は, 2日間で2つの異なった形式の大規模石炭鉱山を見学し,それぞれにおいてカナダのマイニングエンジニアから事務所および現場で直接約3時間にわたり説明を聞いたことは教室での講義を補ってあまりある貴重な海外体験であったようだ。
 最後に,訪問と見学を快く引き受けていただいた,アルバータ大学Deutsch および Szymanski 教授,ARCのGunter博士およびCardinal River CoalsのMunn技師長に感謝いたします。


資源の開発と環境のビジネス

佐々木 久郎 (2002年3月)

 東北各県で多くの非鉄金属・石油などの鉱山から資源の生産がなされ,東北の経済を支えた時期があった。現在でも,石灰石,天然ガス,ゼオライト,石材などの各種の原材料やエネルギー資源の生産は地域産業として重要視されているものの,成熟した産業というイメージも強く,研究開発課題においても新規性の少ない分野としてあまり目が向けられていないのではないかと想像している。私の専門は,このような資源の開発と生産を主体とした分野であるが,最近のグローバルな環境問題という側面からみた状況について述べたいと思う。
 現在,地球レベルでの環境問題が私たちの生活に影響を与えて始めており,私たちの気持ちにもある種の“影”を落としていることは否めない現実がある。そのため,大学の教養教育において地球環境に関して学生に考えてもらっている私の自論がある。それは,「資源は入口で,環境は出口」というものであり,例えて説明すれば,地球は“金魚ばち”のようなもので,エサ(資源)を多くとればそれに比例して排出物も多くなり,金魚ばちの水(環境)が汚れる。結果として,中の金魚(人間)が自分の排泄物による不快な環境で苦しむことになるというものである。ただし,だからといって環境のみに気を取られてエサをとらなければ自身の生存や成長が危ぶまれることになるので,エサを食べることを止められない宿命をもっていることも理解しなければならない。

地球環境について


 すなわち,人類の資源消費による適度な発展と環境保全を両立させるためには,現状の資源やエネルギー消費量を地球の環境浄化作用とバランスできるレベルまで減少させるか,あるいは浄化作用そのものを強化することが求められていることになる。
グローバルな地球環境を考慮して,資源・エネルギーの消費量を節約することは,個人レベルでもある程度は可能であり,意識改革に関する教育や宣伝の役割も大きい。さらに, COP7のような地球温暖化防止に関する協定が批准されれば,環境浄化を強化するようなビジネスチャンスが生まれる。例えば,炭酸ガスなどの排出権取引を想定し,現実にその価格を新規環境プロジェクトの経済性評価に組み込むことも行なわれるようになってきている。

 一方,地域の環境問題においては,最終的に考慮すべき対象フィールドが地下であることも少なくない。とくに,地下水は重要なファクターを多く含んでおり,地域によっては日々の生活の豊かさや安心感とも強く結びついている。また,地下水は複雑な構造を有する地下をゆっくりと移動し,一度変化が加えられると元の状態へ回復するのに長い年月を要する。とくに,目で直接確認できない一種の不安要素も加わるため,地下の環境回復を目的としたプロジェクトにおいては経済性や確実性に関する技術的な障壁になっている。
 実は,過去5年ほどの動きとして,資源の生産を実施してきた分野の研究者や企業が地下をターゲットとした環境プロジェクトに参画する機会が増えてきている。この理由としては,地下が地上の人工構造物のように明確に規定できない自然の要素(不確定要素)を含んでいるため,地下資源やエネルギーの生産過程で地下に関する情報や対応手法を蓄積した分野の研究者たちへの期待があるためと推測している。

 私が,現在教育に従事している地球資源系学科も資源の生産およびグローバルな環境(とくに地下の環境問題を地球レベル,地域レベルで扱う学科である。私たちの環境に関連した研究テーマとしては,地球温暖化に対応した炭酸ガスの地中固定化プロジェクト,非在来型の新エネルギーとして期待されているメタンハイドレートからの天然ガス生産,地中熱(比較的浅い地下の常温の熱源)の有効利用や採石場から産出する石粉の有効利用などに関する地域プロジェクトが含まれている。ただし,これらの問題は個人レベルだけで遂行できない面が多々あり,資源・環境・新エネルギーに関するプロジェクトを推進する受け皿組織として,学内外のメンバーで「地域・地球環境研究会」を構成したいものと希望している。

 現在,取り組んでいるあるいは予定されているテーマとしては,

1. 炭酸ガスの地中固定化システムと安全性評価
2. 市街地における地中熱の利用
3. 炭酸ガス・メタンなどのハイドレートの利用研究
4. 石炭の発熱特性
5. トレーサガスによる通気と乱流拡散係数の測定
6. 地下空間の有効利用

などがある。いずれも関連する範囲も広く,メンバーの得意分野を生かしながら全体的な成果を生み出すことを目指したものである。
 多国間のグローバルな環境問題に関する協定が締結されるなか,それを扱うビジネスがやっと緒についたばかりという感じであるが,これは地方にも等しくビジネスチャンスとなり得るものと期待される。例えば,炭酸ガスの排出量削減あるいは固定化による排出権の獲得は,“場所”とは無関係であり,中央あるいは地方といった枠組みには収まらない性質をもつ。
最後に,環境問題は負の性質をもつものの,一方ではビジネスとして新たな可能性と技術開発課題をもたらしており,資源分野の研究者の新たなチャレンジ目標となっている。


カナダ資源開発系学科のサバイバル戦略

佐々木 久郎 (1999年3月)

 1998年に,海外技術開発動向調査の目的で滞在したカナダ・アルバータ州にある2つの州立大学における資源系(鉱山系と石油系)学科の“サバイバル戦略”について感想を含めて記述することにする。
 1990年あたりから,資源産業の中心的存在である北米に位置しながら,これらの大学においては一般的に資源系学科が縮小している傾向となっている。そのため,滞在した2大学を含めて,“サバイバル戦略”に真剣に取り組んでいるとの印象を強く感じた。その教育方針を説明すれば,“経済性評価を軸とした設計・生産プロジェクトの具体的立案能力の強化”にあるように推測される。簡単に表現すれば,“より専門的なマネージメント教育”ということになるかもしれない。この背景には,他の工学領域が科学技術に基づいて“創造”した物を残すのに対し,資源産業は“経済性”に基づいて原料となるものを採取して売り渡すという相違が理由と考えられる。同じ工学でありながら,“農耕民族”と“狩猟民族”のようなニュアンスの相違を持っている。すなわち,“狩猟民族”は“狩猟道具”の高度化に力を注ぎ,より簡単に,より大量に“売れる獲物”を採取しようする宿命をもつ。“狩猟道具”が大型化し,コンピュータによって高度化すれば,“狩猟民”すなわち“資源開発技術者”自体の数を多く必要としなくなったということかもしれない。従って,北米であっても日本であっても,資源開発技術者自体の数は減少し,より高度な“狩猟道具”を使いこなせる技術者のみがサバイバルできるという図式になっており,産業が衰退したから技術者を必要としなくなったわけではない。大学教育も,現在の資源産業において使われている“狩猟道具”を高度に使いこなせるように訓練し,直ちに仕事が始められるように配慮することが宿命として要求され,サバイバルの戦略とせざるをえないわけである。
滞在した2つの大学の学科状況を以下に説明する。

 カルガリー大学の化学・石油工学科は一般的な化学工学科から石油工学へ力点を移している。カルガリーは石油会社のビルが林立する街であるためか,石油や石炭産業に対する学生の意識も高く,石油開発工学のPhDコースの新設が1998年に許可された(アルバータ大学がカナダで唯一の石油開発工学に関するPhDコースを有していた)。石油開発工学コースが強化されたことから,石油開発を目指す学生が増加している。
 一方,アルバータ大学工学部鉱山・石油工学スクールは,1996年から土木工学・環境工学を統括する大学科(旧土木学科が中心であるが,環境部門と結合した教員80名の大学科)の一部として存続することを選択している。もとの冶金系グループとの学科構成を変更した経緯をもっている。教育自体は,土木系から独立して実施されており,さらに内部で鉱山開発と石油開発コースの二教育コースが認定されている。年間約30名程度の卒業生を送り出し,鉱山と石油コースの学生数の比は約1:2となっている。大学院の学生は全て留学生である。鉱山開発コースで主として教育されているのは,大規模オープンピット鉱山の設計に関するものであり,資源評価,環境アセスメント,ピット設計,重機械の選定,選鉱プラント設計,復土までの全プロジュクトの設計と経済性評価を策定することに主眼が置かれている。石油開発コースも基本的には同様な油層評価,環境アセスメント,掘削計画,生産設備設計などのプロジュクト管理に主点が置かれている。その中で,実際の企業で使われている資源生産用の設計ソフトの使用訓練と資源系の新たな資源評価手法として注目される地球統計学(Geo-statistical Simulation)の演習が盛り込まれている。設計ソフトの場合は,ソフトウェア会社が近い将来のお客となる学生に対し,特別な低価格でソフトウェアの使用を認めていることも背景としてある。また,地球統計学の方は,ドリルホールデータから鉱区における品位分布や浸透率分布を統計数学的に処理し設計の基礎データとして出力するものであり,きわめて資源系の中で重要性を増している分野である。
 日本の資源開発系学科における教育に関して言えば,北米の大学で設定されているカリキュラムをそのまま実施することは様々な面で無理と思われるが,一般的なエンジニアリング教育にシフトすべき部分と専門的な資源開発プロジェクト設計と経済性評価に関する部分とをカリキュラム上どのように調整するかが今後の教育課題と考えられる。




カナダ・アルバ−タ州の資源について

佐々木 久郎 (1990年9月)

 1990年2月末から約半年間カナダ・アルバ−タ州・エドモントン市に滞在し,化石燃料資源の採掘状況などを視察したのでご紹介することにします。
 アルバータ州は,カナダ10州の1つでエネルギ資源および金を含む非鉄金属資源に恵まれた州で,なおかつ小麦・牛肉などの農業生産も盛んです。面積は日本の2倍弱(67万m2),人口240万人,首都はエドモントンです。エドモントンの,人口は約65万人で,周辺のベッドタウン等を含めると75万人程度です。私が研究のため席をおいていたのがアルバ−タ大学です。アルバータ州の人口の80%は,エドモントンと同州内のカルガリーの両市に集中しているため,都市部を除くと人影がほとんど見られなくなります。オリンピック開催地としてカルガリーの方が有名ですが,どちらも双子のように似た都市で,エドモントンニアンとカルガリニアンと互いに呼び合って競ってきた歴史があるようです。両市を本拠地とするオイラ−ズとファイヤ−ズ(いずれも石油産業をイメージする名前がついている)のプロアイスホッケ−の試合が大変白熱するのもそんな背景があるためのようです。なお,昨年は地元オイラ−ズが,NHLのスタンレ−カップの優勝チ−ムとなっています。このときには大変な騒ぎで,真夜中に車のクラクションが市内一斉にならされていたのが思い出されます。
 さて,カナダの鉱山エンジニアたちの集まりであるCIM(カナダ鉱業会)のミ−ティングに出席したおり,これはという鉱山会社のエンジニアと顔をつなぎ,後に電話で見学ツァ−の約束を取りました。ここの鉱山のエンジニアたちは,勤めている会社よりは,個人の勉強とリクル−トの場としてCIMをとらえているようで,学会というより”組合”のような集まりと感じました。これは,日本の場合のようにエンジニアが同一会社に一生勤めることを前提としているのと異なり,ある程度の年数で別会社に移るためと思われます。また,このときにOHS(日本の労働省に相当)鉱山部門の保安官グレッグ・スミス氏と知り合い,その後もアルバ−タ州の資源開発情報,鉱山保安法に関する情報やら,見学時のユニフォ−ムの借用までずいぶん便宜を計ってもらいました。
 私が見学したのは,石炭鉱山3カ所,オイルサンド鉱山2カ所,オイル井1カ所,石炭研究所(ARC),地下鉄の掘進現場などです。この州は石炭・石油・オイルサンドなどの化石燃料資源に恵まれていますが,鉱山の位置はほんんど交通の便が悪く,地図だけをたよりに車で遠出しなければならず,違った道路に入り込み道に迷ったりで,苦労の1つでした。
 この州の石炭は,カナディアンロッキ−に沿った瀝青炭(原料炭)と平野部の亜歴青炭(電力炭)に大きく分類されます。硫黄分が少ないため90%に当たる約3000万トンほどが露天鉱山に隣接した火力発電所ですぐに電気に変えられます。これは,日本の石炭火力発電量と同程度ですから,当然州内では使いきれず,アメリカに輸出しているようです。従って,アパ−トなどでは,電気使用量等は全く気にせず,いくら使っても同じという感覚でした。このままの状態でも1千年間は電力は大丈夫という羨ましい状況のようで,省エネなどは念頭にないようです。ただし,環境保全という意味では相当神経質になってきているようです。採炭方式はストリップ採炭(表土を20m程剥いで石炭をとる方式)で大量の土砂と石炭をに運搬するシステムで,日本の炭鉱とは根本的に異なっています。炭鉱というより,土木建設現場といった感じです。とくにドラッグラインと呼ばれる大型機械は,巨大な採掘機械ですが,2人程度で動かしているので鉱山労働者の数は日本の1割程度のように見えました。例えば,見学した炭鉱の1つであるハイベ−ル石炭鉱山では,日本の総出炭量を上回る石炭量をわずか400人程度で生産しています。最近,このような鉱山への日本の建設機械メ−カの進出が著しく,これまでの機械メーカとの摩擦が多少あるようなことを耳にしました。
 石油は,カナダの約70%を生産し,アルバータ州全体で約140万バーレル/日)(世界の2.3%)生産しています。天然ガスはカナダの95%生産し,25年間のカナダの消費量の可採埋蔵量(石炭の1/10程度)を有するとされています。
 また,このアルバ−タ州には,オイルサンドと呼ばれる砂に超重質原油が絡みついた石油資源7,800億バ−レル程度が州北部(フォ−トマクマレ近辺)の77,000km2 の広大な針葉樹林帯の下に埋蔵されています。既に,20年程前からはストリップ方式の採掘を行なっており,抽出プラントでビチュメンと呼ばれる超重質の炭化水素油を回収し,これから合成原油を生産しています。見学を行った2社が操業しており,カナダの石油消費量の20%あまりを生産するまでになっており,21世紀には重要な石油資源になるものと期待されています。2001年6月の生産コストは$14/バーレルで,利益がほとんどなかったことから,同年7月以降のフセイン大統領のクウェ−ト侵攻直後は,カナダの石油資本にとっては,不謹慎かもしれませんが「夢のような出来事」と写ったようです。近年,環境保全が重要視されてきたため,ストリップ採掘の制限が多くなっています。州政府を中心に地下のオイルサンド層に挿入した水平管に蒸気を直接圧入して,粘度を低下させて流れ出した超重質油のみを下の水平管から回収する技術(SAGDと呼ばれる)の開発が行なわれており,可採埋蔵量もこの技術次第で決まると言っていたことが印象に残っています。私が最も注目されている地下研究施設の原位置回収テストプロジェクトを見学した限りでは,近い将来有望な技術になるだろうとの確信をもって帰国しました。
 このような資源開発に日本の石油会社などのエンジニアたちが自由に参加できたらとも思いましたが,「日本からの投資は歓迎するが,カナダの資源はカナダのエンジニアが開発すべきなのだ」との話を聴くにつけ,日本の技術者は現地に骨を埋める(移民する)つもりで取り組まなくてはカナダのエンジニアたちに受け入れられないようにも思われました。



割りばし雑感

生活の広場 (佐々木久郎) (1989年6月)

 昨年から,大学生協食堂に従来からの割りばしに加えて塗りばしも置かれるようになった。2月27日の朝日新聞でも取りあげられていることからも好評を得ているようである。私自身も昼食時には塗りばしを利用して食べており,これといった違和感などはなく,食べた感じもよい。
 さて,みなさんもご承知のように,割りばしは資源のムダ使いという感じが強く,全国的に使用をひかえる傾向にあるようだ。そのため,危機感を持った割りばし製造業者の組合が「割りばしは,資源の有効利用」なるキャンペーンを始めたというテレビニュースを見た方も多いと思う。
身近なものを対象として「資源の浪費」と「資源の有効利用」という両側面が議論のまとになっていることは興味深い。
ある文献では,日本での割りばしの年間総使用量は約四十七万トンで,一万戸分程度の住宅に使用されている木材量に匹敵すると書かれている。これは思った以上に大変な量である。これがゴミとして処分されるわけで,それ相応の処分費用が掛けられていることになり,ものを大切にするという側面からもどうかという指摘もされているようだ。
 一方,割りばし製造業者の言い分としては,スギ,マツ,ヒノキ,カバなどの角材を取った後に残る背板などを原料として割りばしを作っているということのようだ。従って,「廃材の有効利用」という説ももっともなことのようにも思われる。また,竹材の割りばしなどを除けば,最近地球環境に大切と考えられている熱帯雨林を伐採した南洋材を使用しているわけでもなさそうである。ただし,使用後の割りばしは,分散の度合が大きく経済的な再資源化は困難と思われる。
塗りばしについては,再利用されることから,一応省資源とすることができ,ゴミとならない利点もある。再利用するためには多少の洗浄等に手間がかかるが,ト−タルでは相当の経費削減になり,経済的効果が大きいようだ。ただし,樹脂製品を使った塗りばしでは,使用後の廃棄を考えると問題点は残りそうである。
 以上のように特徴を雑然とあげてみたが,大学生協食堂における塗りばしの選択は,経済性と省資源ということからみて,順当なところと考えられる。広義にいう資源の意味を調べると,鉱物資源などのように顕在的なものから,気候や文化などの潜在的なものまで含む場合もあり,時代によって変遷をかさねているもののようだ。最近では,自由財とされた水や大気さらには熱帯雨林なども地球環境の保全という面から有限な資源(環境資源)として認識されるようになってきていることは御存知のとおりである。いま,人間の経済的なものや豊かな環境への要求などの得失をもつ多くの項目を積分したものをあえて「欲望」と呼ぶと,このような「欲望」が,ある種のものを資源として認識させたり,廃棄物として捨て去る基準をもたらすことになる。したがって,割りばしという人間の「欲望」にかなった経済的用途によって,廃材も資源化したともいえる。この用途が消失すると新たな「欲望」を満たす利用対象が表れるかコスト削減が可能となるまでは再び廃材として扱われることになる。かといって,割りばしの大量消費と廃棄を奨励するわけではなく,廃材をも大量に出してしまう日本の木材消費そのものにも目を向ける必要性もありそうだ。また,南洋材の80%は合板に加工され,使い捨てのコンクリ−トパネルなどにも利用されており,地球環境の保全のための省資源技術の開発を望みたい。
 漫然と資源にまつわる話として,割りばし一つでも多少複雑に絡んだ事情をもっているかのように書いてしまったが,要は省資源が最後の判定基準であることは云うまでもない。




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